PCMレク:予防医学基礎(15th Aug 2024)

予防医学の基本概念

概要

予防医学は、プライマリケアの重要な要素として位置づけられています。医師は日常的に予防医療を提供し、患者から健康を維持し病気を予防する方法について相談を受けることが多いです。予防医療の重要性は、すべての年齢層の患者にとって有益であり、特に病気の予防において役立ちます。

患者の全体的な生活スタイル、食事、身体活動、家族の病歴を理解することは、医師が関連するアドバイスを提供するために不可欠です。これにより、患者が健康的な方法で体をケアすることを奨励することができます。プライマリケアで行われる介入の一例として、患者に対して健康的な食事を摂り、定期的な運動を行うことで、過剰な体重を減らし病気のリスクを低減するよう促す健康促進アドバイスが挙げられます。

さらに、一次予防プログラムの重要性は、慢性疾患が個人、施設、社会に及ぼす影響を軽減するためにますます高まっています。


健康の概念

健康とは?
健康とは、単に病気や虚弱がない状態を指すのではなく、身体的、精神的、社会的に完全な幸福の状態を指します(WHO)。

健康的なライフスタイルとは?
健康的なライフスタイルは、深刻な病気にかかるリスクや早期に死亡するリスクを低減する生き方です(WHO)。

ウェルネスとは?
ウェルネスは、健康で充実した生活を目指して意識的に選択する、積極的なプロセスです。心、体、精神の健康的なバランスを保ち、全体的な幸福感をもたらす状態を指します。

ヘルスケアとは?
ヘルスケアは、病気の予防、治療、管理、および健康の保持を、医療機関や専門家が提供するサービスを通じて行うことです。これには、個人または集団に向けられた予防的、治療的、緩和的な介入を含む、健康促進のために設計されたすべての商品とサービスが含まれます。

健康状態の測定
健康状態は、死亡率、特定の病気が生活の質や機能に与える影響に基づいて測定されることがあります。

健康の社会的決定要因: 「原因の原因」


健康の社会的決定要因とは?

健康の社会的決定要因は、個人が生まれ、成長し、生活し、そして老いる際の環境や条件を指します。これらの条件は、世界的、国家的、地域的なレベルでの金銭、権力、資源の分配によって形成されます。

健康の社会的決定要因は、健康格差の主な原因とされています。健康格差とは、国や地域内で見られる不公平で回避可能な健康状態の違いのことです。


具体的な要因の例

以下は、健康の社会的決定要因に含まれる具体的な要因の例です。

  • 雇用条件: 仕事の安定性や労働条件が、健康に大きな影響を与えます。
  • 労働条件: 安全で健康的な労働環境が、病気や怪我の予防に重要です。
  • 社会的排除: 社会からの孤立や差別は、精神的および身体的な健康に悪影響を及ぼします。
  • 住宅へのアクセス: 安全で適切な住宅環境は、健康の基盤となります。
  • 清潔な水と衛生設備: 清潔な水と適切な衛生設備へのアクセスは、感染症の予防に不可欠です。
  • 社会保障制度(保険): 健康保険や社会保障制度へのアクセスは、病気や怪我の際に必要なケアを受けるために重要です。
  • 医療へのアクセス: 質の高い医療サービスへのアクセスが、健康の維持に不可欠です。
  • ジェンダー平等: ジェンダーに基づく不平等は、健康の不平等を引き起こす要因の一つです。
  • 幼児期の発達: 幼児期における適切な栄養、教育、ケアが、健康な成長に大きな影響を与えます。
  • グローバリゼーションと都市化: グローバリゼーションや都市化は、健康に対する新たな課題と機会をもたらします。

健康に対する社会的決定要因の影響


健康の社会的決定要因がどのように健康に影響を与えるかについて、以下の3つの主要なメカニズムがあります。


1. 直接的な因果関係 (Cause-Effect Relationship)

社会的決定要因は、健康に直接的な影響を与える場合があります。たとえば、劣悪な労働条件や不衛生な住環境は、怪我や感染症のリスクを高めます。これらの要因が存在することで、病気や健康被害が直接的に引き起こされるという因果関係が成立します。


2. 行動変容 (Behavioral Change)

社会的決定要因は、個人の健康に関連する行動に影響を与えます。例えば、経済的困窮や教育の不足が原因で、不健康な食事や喫煙、運動不足といった健康に悪影響を与える行動が促進されることがあります。このように、社会的決定要因は行動を変容させ、その結果として健康に影響を与えるのです。


3. 細胞機能への影響 (Cellular Function)

社会的決定要因は、遺伝子や細胞レベルでの変化を引き起こすこともあります。たとえば、長期的なストレスや環境汚染は、遺伝子の発現や突然変異を誘発し、これが健康状態に影響を及ぼす可能性があります。このように、社会的決定要因が細胞機能に変化をもたらし、最終的に病気のリスクを高めることがあります。

予防と予防医学について


予防とは?

予防とは、何かが起こるのを防ぐ行為を指します(Cambridge Dictionary, 2022)。特に健康分野において、予防は病気の発生を防ぐために重要な役割を果たします。


病気の予防

病気の予防は、患者や公衆を実際または潜在的な健康の脅威やその有害な結果から守るために設計された一連の活動を指します(Mosby’s Medical Dictionary, 8th Edition)。この予防活動には、病気の発生を防ぐためのリスク要因の軽減だけでなく、病気が発生した場合にはその進行を食い止め、その結果を軽減するための対策も含まれます(WHO, 1984)。


予防医学とは?

予防医学は、人々の健康を維持し、病気の予防と健康促進を目指す医学の一分野です(Textbook of Family Medicine, 9th Edition, Rakel et al.)。これは、病気を予防し、寿命を延ばし、身体的および精神的な健康と効率を促進する科学であり、芸術でもあります。

予防医学の目的は、患者が自身の健康を促進し、リスクを軽減し、特定の病気を予防し、早期診断を行い、機能を改善し、障害を軽減することで生活の質を向上させることです。


予防の3つのカテゴリー

予防は、以下の3つのカテゴリーに分類されます。

  1. 一次予防(Primary Prevention)
    病気の発生を防ぐための対策を指します。例としては、ワクチン接種プログラムや禁煙プログラムなどがあります。
  2. 二次予防(Secondary Prevention)
    無症状の個人を対象としたスクリーニングや早期診断を指します。これにより、病気が進行する前に対処できるようにします。
  3. 三次予防(Tertiary Prevention)
    病気や障害がすでに発生した場合に、生活の質を改善するためのリハビリテーションを行います。これにより、機能を回復し、さらなる悪化を防ぐことが目指されます。

まとめ

予防と予防医学は、病気を未然に防ぎ、健康を促進するための重要な概念です。個々の健康状態やライフスタイルに合わせた予防策を講じることで、より健康な生活を実現することが可能です。予防医学のアプローチは、個人だけでなく、社会全体の健康を向上させるために不可欠なものです。

予防のレベル

予防にはさまざまなレベルがあり、それぞれ異なる段階での介入を通じて健康を守ることが目指されています。以下は、予防の4つのレベルとそれぞれの特徴です。


1. 原発予防(Primordial Prevention)

  • 説明: 原発予防は、個人の健康リスクを予防するのではなく、広範な健康決定要因に対処します。これは、健康に対する将来の危険を最小限に抑えるために、環境的、経済的、社会的、行動的、文化的要因を制御し、病気のリスクを高める因子の確立を抑制するための行動を含みます。
  • 例: 環境の改善、社会経済的な政策の導入、健康的なライフスタイルの推進など。

2. 一次予防(Primary Prevention)

  • 説明: 一次予防は、病気の発症を防ぐことを目的とします。この段階では、病気の発生を未然に防ぐために、具体的な疾患の保護策や健康教育、環境の修正などが行われます。
  • 例: ワクチン接種(MMR、マラリア予防)、免疫接種、栄養補助、職業安全や交通安全対策(シートベルト法、飲酒運転防止法)

3. 二次予防(Secondary Prevention)

  • 説明: 二次予防は、潜在的な病気を早期に発見し、迅速に治療することを目指します。この段階では、疾患の初期段階における診断やスクリーニングが行われます。
  • 例: 自己乳房検査、心臓発作や脳卒中を防ぐための薬物療法、パップスメア(子宮頸がんスクリーニング)、PSA検査(前立腺癌スクリーニング)。

4. 三次予防(Tertiary Prevention)

  • 説明: 三次予防は、既に発生した疾患や障害の影響を軽減し、機能の回復を図ることを目的とします。この段階では、障害の制限やリハビリテーションが行われ、病気や怪我の影響を「和らげる」ことを目指します。
  • 例: 疾患の後のリハビリテーション(物理療法や心理的リハビリ)、心臓病や脳卒中のリハビリプログラム、手術後の化学療法など。

ケアのレベル

医療のケアには、異なるレベルがあり、それぞれが特定の健康ニーズに対応しています。以下は、ケアの4つのレベルとその特徴です。


1. 原発ケア(Primordial Care)

  • 説明: 原発ケアは、健康の基盤を整えることを目指し、広範な社会的、環境的要因に対処します。このレベルでは、健康リスクを減少させるための政策や社会的な取り組みが行われます。具体的には、健康的なライフスタイルを促進し、病気のリスク要因を制御することが含まれます。
  • 例: 健康教育の推進、環境保護、社会的支援システムの強化。

2. 一次医療(Primary Health Care)

  • 説明: 一次医療は、基本的な健康ニーズに対応し、病気の予防と健康促進を行うケアです。一般的な医療サービスを提供し、慢性疾患の管理や健康維持を目的としています。ここでは、予防接種、健康診断、一般的な病気や軽度のけがの治療が行われます。
  • 例: 健康診断、予防接種、一般診療、慢性疾患の管理(糖尿病、高血圧など)。

3. 二次医療(Secondary Health Care)

  • 説明: 二次医療は、より専門的なケアが必要な場合に提供されるサービスです。このレベルでは、専門医による診断や治療が行われ、一般診療では対応できない複雑な病状に対処します。入院が必要な場合や、手術が行われることが多いです。
  • 例: 専門医による診察、入院治療、外科手術、複雑な病気の治療(心臓病、がん治療など)。

4. 三次医療(Tertiary Health Care)

  • 説明: 三次医療は、最も高度な医療ケアを提供し、高度な専門技術やリソースを必要とするケースに対応します。ここでは、専門的な治療やリハビリテーションが行われ、長期的なケアが必要な場合があります。通常、大学病院や専門医療機関で提供されることが多いです。
  • 例: 高度な外科手術、がんの化学療法、心臓の移植手術、長期的なリハビリテーションプログラム。

予防の目的と影響

予防には異なるレベルがあり、それぞれが異なる段階の病気に対応しています。各レベルでの目的や行動、ターゲットについての解説を以下に示します。


1. 原発予防(Primordial Prevention)

  • 対象となる病気の段階: 健康リスクの原因となる基礎的な経済的、社会的、環境的条件
  • 目的: 健康に対する危険を最小限に抑える条件を確立し、維持すること
  • 行動: 環境的、経済的、社会的、行動的な条件が病気の原因となるのを防ぐための施策。具体的には、健康促進や公共政策の実施など。
  • ターゲット: 全人口または特定のグループ。公共健康政策や健康促進活動を通じて達成されます。

2. 一次予防(Primary Prevention)

  • 対象となる病気の段階: 病気の発症前
  • 目的: 疾患の発生を減少させること
  • 行動: 栄養状態の改善、予防接種の提供、環境リスクの排除など、個人やコミュニティによる健康保護。これには健康教育や公衆衛生プログラムが含まれます。
  • ターゲット: 全人口、特定のグループ、高リスクの個人。公衆衛生プログラムを通じて達成されます。

3. 二次予防(Secondary Prevention)

  • 対象となる病気の段階: 病気の初期段階
  • 目的: 病気の有病率を減少させ、疾患の期間を短縮すること
  • 行動: 疾患の早期発見と迅速な介入を通じて、病気をコントロールし、障害を最小限に抑えるための措置。具体的には、スクリーニング検査や早期診断が含まれます。
  • ターゲット: 既に疾患が確認された個人。早期診断と治療を通じて達成されます。

4. 三次予防(Tertiary Prevention)

  • 対象となる病気の段階: 病気の進行期または末期
  • 目的: 合併症の数や影響を減少させること
  • 行動: 長期的な疾患や障害の影響を和らげ、苦痛を最小限に抑え、有用な人生年数を最大化するための措置。具体的には、リハビリテーションや慢性疾患の管理が含まれます。
  • ターゲット: 患者。リハビリテーションを通じて達成されます。

成功する予防の鍵

効果的な予防には、さまざまな要素が関与しています。以下に、それぞれの要素について詳しく説明します。


1. 原因の理解(Knowledge of Causation

  • 説明: 予防の第一歩は、病気や健康問題の原因を理解することです。病気がどのように発生し、何がその引き金になるのかを知ることで、効果的な予防策を立てることが可能になります。例えば、感染症の予防では、病原体やその感染経路を知ることが重要です。

2. 伝播のダイナミクス(Dynamics of Transmission)

  • 説明: 病気がどのように広がるのか、その伝播の仕組みを理解することも重要です。感染症の場合、伝染の経路(例:空気感染、接触感染、媒介物感染など)を知ることで、適切な予防策を講じることができます。これにより、病気の広がりを抑えるための対策を効果的に実施することができます。

3. リスク要因とリスクグループの特定(Identification of Risk Factors and Risk Groups)

  • 説明: 予防策を効果的にするためには、誰がリスクにさらされているのか、どのような要因が病気のリスクを高めるのかを特定することが必要です。リスクグループを特定することで、予防策をよりターゲット化し、効果的に介入することができます。

4. 予防や早期発見と治療手段の利用可能性(Availability of Prophylactic or Early Detection and Treatment Measures)

  • 説明: 予防や早期発見、治療の手段が利用できることも成功する予防には欠かせません。予防接種やスクリーニング検査など、早期の介入が可能であれば、病気の発症や進行を防ぐことができます。

5. 治療手続きの施設の整備(Facilities for Treatment Procedures)

  • 説明: 予防策が成功するためには、必要な治療手続きや対応が行える施設が整備されていることが重要です。適切な医療施設やインフラが整っていれば、予防策が迅速かつ効果的に実行され、必要に応じて治療が行われます。

6. 緩和手続きの評価と開発(Evaluation and Development of Mitigating Procedures)

  • 説明: 予防策の効果を評価し、必要に応じて改善することも重要です。これにより、予防策の有効性を高め、未来の健康リスクに対応できるようになります。評価と開発を繰り返すことで、予防策が進化し、より強力な対策が可能になります。

病気予防の段階と対応する予防ステージ(Ronal Hattis, 2012)

病気の予防は、病気の発生からその進行、さらには最終的な結果に至るまでの各段階に応じて異なるアプローチが必要です。以下に、それぞれの段階とそれに対応する予防ステージ、および関連する教育手法について解説します。


1. 曝露(Exposure

  • 予防ステージ: 曝露の回避または予防
  • 教育手法: 疫学、リスク要因、遺伝学
    • 説明: この段階では、病気に対する曝露を未然に防ぐことが目的です。疫学的知識やリスク要因、遺伝的な要素を理解することで、どのようにして病気の発生を防ぐかを学びます。

2. 獲得(Acquisition

  • 予防ステージ: 病気の獲得の減少
  • 教育手法: 細胞機構、免疫学、診断法
    • 説明: 病気の発症を防ぐためには、病原体やその他の原因が体内に入ることを防ぐ必要があります。免疫システムの働きや細胞レベルでのメカニズムを学び、診断法を用いて早期に発見・対応することが重視されます。

3. 進行(Advancement/Progression

  • 予防ステージ: 病気の進行の中断
  • 教育手法: 病態生理学、予後予測、モニタリング、治療とメカニズム
    • 説明: 病気が進行しないように、または進行を遅らせるために介入が必要です。この段階では、病態生理学の理解や予後の予測、治療法の選定とそのメカニズムを学ぶことが重要です。

4. 合併症(Complications

  • 予防ステージ: 合併症の回避
  • 教育手法: 病理学、医療および外科的介入、患者ケア、臨床管理
    • 説明: 病気が進行し、合併症が発生するリスクがある場合、その合併症を予防または管理することが必要です。病理学的な理解と適切な医療・外科的介入、患者のケアと臨床管理を通じて、合併症を最小限に抑えます。

5. 死または障害(Death or Disability

  • 予防ステージ: 死の遅延または障害のリハビリ
  • 教育手法: 障害のリハビリ、不可避な死への緩和ケア
    • 説明: 病気が進行し、最終的に死や障害が避けられない場合でも、その影響を最小限に抑えることが重要です。この段階では、リハビリテーションや緩和ケア、集中介入を通じて、患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させ、死を遅らせるための支援が行われます。

The Prevention Framework: ローカル、州、全国レベルでの予防の枠組み

予防は、個人の努力だけでなく、コミュニティ全体、州、および国レベルでの取り組みが重要です。それぞれのレベルでの取り組みが、環境関連の病気や健康問題の予防にどのように貢献するかを見ていきましょう。


ローカルレベルの予防

  • コミュニティの役割: 個人の予防努力を超えて、地域社会の行動が環境関連の病気を予防・軽減するために特に効果的です。地域レベルでの行動は、コミュニティ教育や環境健康問題に関する近隣住民の意識向上など、多岐にわたります。
  • 具体例: 自転車道の設置を奨励するゾーニング法や、酒類販売店の数や密度を減らす政策などは、地域政府がコミュニティの利益のために実施する行動の例です。
  • 情報共有の重要性: 近隣住民協会、信仰団体、コミュニティベースの組織、その他のローカルグループ間での情報共有は、サービスのギャップを明らかにし、公衆衛生の成果を達成するための調整された取り組みを促進します。

州レベルの予防

  • 州の役割: 州は、ローカルおよび連邦の予防努力を促進する重要な役割を果たし、自らの取り組みを通じて予防に貢献します。例えば、食品サービス施設やプール、有害廃棄物処理場などでの検査や規制の施行が、州全体での病気予防に寄与しています。
  • 州主導の取り組み: 健康診断プログラム、禁煙キャンペーン、健康教育の支援も州の重要な役割です。また、州は連邦機関と協力して、CDCの児童鉛中毒予防プログラムや、心臓病・脳卒中予防プログラムなどの実施を支援しています。

全国レベルの予防

  • 全国的な取り組み: 全国規模の予防活動には、環境中の有害物質の存在や曝露を減少させるための政策や規制プログラム(例: Clean Water Act、全国タバコ対策プログラム、全国喘息対策プログラム)が含まれます。
  • 関与する機関: 公衆への曝露を直接的または間接的に減少させる活動には、多くの機関が関与しています。具体的には、CDCや食品医薬品局(FDA)を含む保健社会福祉省、環境保護庁(EPA)、住宅都市開発省(HUD)、農務省(USDA)などが予防活動に関与しています。

予防の基盤としてのエビデンス

エビデンスのピラミッド: 予防医療におけるエビデンスは、信頼性の高いものから低いものまで、ピラミッドの形で分類されます。

  1. ピラミッドの頂点: 最も信頼性が高いエビデンスとして位置づけられるのは、質の高いシステマティック・レビューやメタアナリシスです。これらは多くの研究結果を総合し、全体的な結論を導き出すため、予防策や治療法の有効性を評価する際の最も信頼できる情報源とされています。
  2. ピラミッドの基盤: 相関研究(生態学的研究)や症例報告は、興味深い情報を提供しますが、因果関係や有効性を証明するためには使用されません。これらは主に新たな研究の方向性を示すために役立ちます。
  3. 観察研究: 単一の観察研究に基づいて既存の治療法や予防策を変更するべきではありません。単一の無作為化対照試験(RCT)も、一般的には十分ではありません。特定の意見を支持するために個別の研究を引用することは、「チェリーピッキング」と呼ばれ、エビデンスの正確な解釈を妨げることがあります。

エビデンス評価の高品質なガイドライン: 高品質な予防ガイドラインを作成するためには、以下の要素が重要です。

  1. 専門家のパネル: ガイドラインを作成する際には、医療文献を評価するスキルを持った専門家パネルが必要です。これには、潜在的または実際の利益相反を最小限に抑え、管理するためのポリシーが含まれます。
  2. 出版元: 高品質なガイドラインは、米国医学研究所(Institute of Medicine)によって発行されることが推奨されます。

予防の具体的な成果の例:

  • 禁煙政策の影響: 職場、レストラン、バーを完全に禁煙とする法律は、心臓発作による入院率を8%から17%まで減少させることができます。
  • 大気質改善の成果: 米国の大気質を規制する連邦法の施行により、1980年以降、6つの主要な大気汚染物質が54%減少しました。

ベンジャミン・フランクリンが1736年に述べた「予防は治療に勝る」という格言は、予防の重要性を強調しています。この言葉は、わずかな努力や予防策を講じることで、後々の大きな問題や負担を避けることができるという意味を持っています。

フランクリンの言葉は、現代の医療における予防医学の基本理念にも通じており、病気が発生する前にそのリスクを低減することが、発病後に治療するよりもはるかに効果的であることを示唆しています。これにより、個人の健康だけでなく、社会全体の健康維持にも大きな影響を与えることができます。

予防の重要な要素

予防医療において、以下の要素が非常に重要です。これらは、健康リスクの低減や健康増進に向けた効果的なアプローチを構築するための基盤となります。

1. 意識向上と教育

  • 決定者や専門家の教育: 科学に基づいた健康予防のアプローチについて、政策決定者や公衆衛生の専門家、医療提供者、そして一般市民に情報を提供し、彼らが最大の利益と影響を得られるようにします。
  • 政策への情報提供: 介入の有効性に関する情報を提供し、政策策定に役立てます。
  • 教育の普及: 医療分野の内外の労働者に教育を行い、これらの人々が健康的な行動を奨励し、特定の健康リスクをスクリーニングし、地域社会の教育に貢献できるようにします。
  • 一般市民への健康教育: 公衆に健康教育情報を提供し、予防意識を高めます。
  • メディアとの協力: 公衆衛生問題を強調するためにメディアと連携し、広く認知を促進します。
  • 情報配布プログラム: 高リスクの人々やグループをターゲットにした情報配布プログラムを確立し、積極的に情報を提供します。

2. 研究

  • 研究アジェンダの策定と支援: 全国レベルで環境公衆衛生の研究アジェンダを策定し、知識のギャップを埋めるための研究を支援します。これにより、有害な環境要因と健康アウトカムとの関連性についての新しい知見を得ることができます。

3. あらゆるレベルでの監視

  • リスクの監視: 環境リスクのある地域や状況を監視し、環境に関連する健康アウトカムの有病率を特定します。
  • 課題の特定と追跡: 全国、州、またはコミュニティレベルでの環境衛生問題を特定し、それらを追跡するための指標を開発し、広範な監視を実施して、環境ハザードと健康問題との関係を特定します。

4. 地方、州、国家レベルでの評価

  • ハザード評価の実施: 必要に応じてリスク評価を実施し、高リスクの状況に対応します。有害物質を特定し、定量化することで、曝露の削減を促進します。

5. 公衆衛生システムの改善

  • 環境保健システムの強化: あらゆるレベルでの環境保健システムを強化し、再活性化します。長期的な戦略的パートナーシップを構築し、すべての利害関係者によるコミットメントを強化し、追加のリソースを確保します。また、環境規制機関との協力や、有能で効果的な環境公衆衛生労働力の育成にも取り組みます。

6. 個人の積極的な行動

  • 健康的なライフスタイルの選択: 健康的なライフスタイルを選び、環境に優しい製品やサービスを選択し、自分や家族の環境への影響を最小限に抑えるよう努めます。
  • 予防意識の向上: 問題についての情報を得て、健康を促進し、病気を予防するための予防活動に積極的に参加します。

アプローチ集団戦略高リスク戦略
ターゲット全体の人口(高リスク群と非高リスク群)リスクのある個人
特徴社会的、行動的、ライフスタイルの変化を促進高リスク群に対して特定の介入
利点– 社会全体に影響を及ぼす
– リスク低減の効果が大きい
– コスト効率が高い
– 高リスク群の動機付けが高い
– 個人がリスクについて認識しやすい
– リスクを具体的に管理できる
– 動機付けが高い
– 専門家による効率的な介入が可能
欠点– 量-反応関係がない場合、効果が少ない
– 小さなリスクに対応できない
– 予防が医療化する可能性がある
– 行動の影響要因に焦点を当てていない
– 全体的な疾患管理への影響が少ない
– 一般人口への影響が少ない
– 小さなリスクに対するアプローチが不足
– 広範な健康問題には対応しにくい
Approaches of Primary Prevention for Chronic Diseases

「一次予防における介入方法」

介入の種類説明具体的な介入例
健康促進健康を改善するために人々が健康に対するコントロールを高めるプロセス
ホリスティック(全体的)アプローチ
– 健康教育
– 環境の改良
– 栄養介入
– ライフスタイルと行動の変化
特異的保護特定の疾病に対する保護を目的とした努力– 免疫接種
– 特定の栄養素の使用
– 化学予防
– 職業的危険、事故、発癌物質からの保護
– アレルゲンの回避
Modes of intervention in Primary Intervention

二次予防(Secondary Prevention)

介入方法:

  • 早期診断: 未認識の病気を早期に発見するために、スクリーニングテスト、ケースファインディング(病気の発見)、診断テストを行います。
  • 治療: 早期に発見された病気に対して、適切な治療を提供します。

効果:

  • 未認識の病気を探し出す: 二次予防は、症状が現れていない段階で病気を見つけることを目指します。
  • 不可逆的変化が起こる前に治療を提供: 病気が進行して不可逆的な変化を引き起こす前に治療を行います。
  • 感染症の伝染性を逆転させる: 二次予防は感染症の広がりを防ぐための治療を提供します。
  • コミュニティを保護する: 早期の診断と治療により、病気の拡大を防ぎ、コミュニティ全体の健康を守ります。

三次予防(Tertiary Prevention)

介入方法:

  • 障害制限: 既存の健康状態から生じる障害や苦痛を最小限に抑えるための措置を講じます。
  • リハビリテーション: 機能の回復を促進し、患者が持続可能な生活を送れるようにします。
  • 介入: 病気の進行が既に始まっている段階で介入します。

目的:

  • 病気のプロセスを障害からハンディキャップへ移行させないようにする: 病気が進行して障害やハンディキャップを引き起こさないように予防します。

障害とハンディキャップの定義:

  • 障害 (Disability): 通常の活動を行う能力に制限や欠如がある状態。
  • ハンディキャップ (Handicap): 障害や疾患から生じる不利な状況で、その個人が通常の役割を果たすのを制限または妨げるもの。

リハビリテーションの種類:

  1. 医療リハビリ: 機能の回復を目指します。
  2. 職業リハビリ: 生計を立てる能力の回復を目指します。
  3. 社会的リハビリ: 家族や社会との関係の回復を目指します。
  4. 心理的リハビリ: 個人の尊厳や自信を回復させることを目指します。

病気のコントロール

病気のコントロールとは、以下の要素を減少させることを目的としたプロセスや操作です:

  1. 疾病の発生率の減少:
    • 新たな病気の発生を減少させることを目指します。これには、予防接種や健康教育などの手段が含まれます。
  2. 病気の期間の短縮(感染のリスクの軽減):
    • 病気の進行を遅らせ、感染の広がりを防ぐことで、病気の期間を短縮します。これには早期診断と迅速な治療が重要です。
  3. 感染の影響の軽減:
    • 病気が引き起こす影響(症状や合併症など)を最小限に抑えることを目指します。例えば、適切な治療やリハビリテーションが含まれます。
  4. コミュニティへの財政的負担の軽減:
    • 病気に関連する医療費やその他のコストを削減し、コミュニティ全体への経済的な負担を軽減します。

病気のコントロールは主に以下の予防レベルに焦点を当てます:

  • 一次予防(Primary Prevention): 病気の発生を防ぐための活動。例としては、健康促進活動や予防接種が含まれます。
  • 二次予防(Secondary Prevention): 病気の早期発見と治療。例としては、スクリーニングテストや早期診断が含まれます。

Disease Eradication(病気の根絶)とは、特定の病気を完全に消滅させ、再発させることがない状態を指します。これは、世界中どこでも、その病気が見られなくなることを意味します。病気の根絶に向けた取り組みは、非常に徹底的で、全体的な対策が必要です。以下にその概念を解説します。

病気の根絶 (Disease Eradication)

全か無かの法則 (All or None Law)

病気の根絶は「全か無かの法則」と呼ばれることがあります。これは、病気を根絶するためには、以下のような厳格な基準が要求されることを意味します:

  1. 完全な根絶:
    • 病気が完全に根絶される必要があります。つまり、特定の病気が世界中で一切発生しなくなる状態を目指します。病気の根絶は、あらゆる発生源を排除することを含みます。
  2. 再発の防止:
    • 根絶後に病気が再発することがないようにする必要があります。これは、持続的な監視と予防策が必要です。
  3. 地域的および国際的な協力:
    • 病気の根絶には、世界中の協力が必要です。各国が連携し、根絶活動を推進する必要があります。
  4. 徹底的な介入:
    • 大規模な予防接種キャンペーン、監視、早期発見、治療などが必要です。病気が完全に消滅するまで、根絶活動は続けられます。

根絶の例:

  • 天花 (Smallpox): 天花は、世界で唯一根絶された病気であり、1979年に根絶が宣言されました。これは、国際的な予防接種キャンペーンと徹底的な監視により達成されました。

要約

  1. 予防科学(Prevention Science):
    • 定義: 予防科学は、社会的、身体的、精神的健康問題の予防に関連する理論、研究、および実践を科学的に研究する学際的な分野です。これには、病因学(etiology)、疫学(epidemiology)、および介入(intervention)が含まれます。
    • 目的: 健康問題を予防するための理論的な基盤を築き、効果的な予防策を開発することを目指します。
  2. 病気の進行の理解:
    • 説明: 病気の進行の性質を理解することは、予防策を策定するための最初のステップです。病気がどのように進行するかを知ることで、適切な予防方法を計画し、実行することが可能になります。
  3. 病気の各段階での予防:
    • 説明: 予防は病気のいかなる段階でも達成することができます。予防のアプローチは、病気が発症する前、または早期に介入することによって、病気の進行を抑えることが可能です。
  4. 最も効果的で経済的な予防方法:
    • 説明: 原初的予防(Primordial Prevention)または一次予防(Primary Prevention)が最も効果的で経済的な予防方法です。これらの方法は、病気の発症を未然に防ぎ、健康を促進することを目的としています。
  5. 病気のコントロール:
    • 説明: 病気のコントロールは予防の一部であり、病気の継続的な監視と監視を通じて達成されます。これにより、病気の発生や拡大を抑えるとともに、コミュニティ全体への影響を最小限に抑えます。

まとめ

  • 予防科学は、社会的、身体的、精神的健康問題の予防に関する理論、研究、実践を科学的に探求する学際的な分野です。
  • 病気の進行を理解することが、効果的な予防策の策定に繋がります。
  • 予防は病気のすべての段階で行うことができ、特に原初的予防や一次予防が最も効果的です。
  • 病気のコントロールは、継続的な監視と管理を通じて実現されます。

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